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なにもない手から生まれるもの |
今の所、機動警察パトレイバーがメイン 『好きこそ物の上手なれ』を目指して邁進中 |
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BAD DREAM (3:夢魔)
「た…たけお…武緒…」
血の気が失せ蒼白になって行く内海の顔と、床に大きく広がって行く真っ赤な血溜まりが対称的だった。
動脈を切られているのか腹部から血液が噴出する。熊耳は傷口を手で圧迫するが、それでも尚溢れ出てくる。
「…リチャード」
熊耳は内海の体を抱きかかえながら呻くように声をかけた。
あぁ。この人は多分死んでしまうだろう。
周りが騒がしくなってきたが、二人はとても静かに感じた。まるで誰も居ない海にいるようだった。
内海の声だけが耳によく届く。
「武緒… 僕は死ぬのかな…」
「…ええ…多分…。」
思ったよりもすんなりと、熊耳は宣告する事ができた。
「今の君は…どんな気分? 僕はね… 幸せだよ…
愛する女の腕の中で死ねるんだ…こんな…死に方できる奴なんて…そういないだろう…
ははは…まるで…映画のワンシーンだ…僕には…ぴったりだな…」
内海は自分の腹部を押さえている熊耳の手を握りしめ、そう言ってウインクしてきた。死ぬ間際でも彼らしい行動。
「私は…私は残念でならないわ。
あなたをずっと逮捕できないまま、地獄へ逃がしてしまうんですもの。」
彼の手を握り返すと、内海は笑っていた。
「武緒らしいなぁ… そんなに僕が憎いかい…」
「ええ…とても…」
内海の瞳は既に闇しか捕えていなかった。
しかし、熊耳の声がとても心地よかった。それがどんな言葉であっても。
そして冷えて行く体に感じる彼女のぬくもりが愛おしかった。
後少ししたら感じられなくなる、それが内海には残念だった。
「…そんなに…念ってくれるなら…僕は……武緒の中で…ずっと生き続けられる…ね…」
熊耳の目が大きく見開かれる。内海はいつも通りの、にこやかな表情だった。
とてもこの世を離れて行く人間とは思えない程の笑顔。その体がふいに重くなる。
「…リチャード…リチャード…」
熊耳は最後まで自分の本心は告げなかった。内海の頬に自分のこぼした涙が伝って行く。
まるで内海が泣いているように熊耳には見えた。
「とても…とても愛していたわ。」
抱きしめていた熊耳の腕から内海の体がぼやけ、半透明になって消えて行く。
「…リ…チャード」
そして熊耳自身も周りが全て闇に包まれた場所に移動していた。
そこはあの事件のあった客船ターミナルではなかった。
「また…夢を見ているの」
一寸先すら見えない闇の世界。
内海が死んでから彼と会う為に見ている夢。
「武緒はすっかりこの世界が気に入ってしまったようだね。」
闇の中だけに響く内海の声。姿は無くなってしまったが、彼がしっかり生きている世界。
「僕に頻繁に会いに来ると、君もこの世界の住人になってしまうよ。」
「そうしたら、あなたを逮捕できるかしら…」
熊耳は闇に向けて微笑んだ。
「どうかな…。一緒に仲良く暮らすってのも、手かもしれない。」
内海らしい提案に熊耳は吹き出す。
「貴方らしいわ。」
熊耳の体を温かくて心地よい闇が包む。まるで内海に抱きしめられているようだった。
「善も悪も無い世界だ。死にたくても死ねない。殺したくても殺せない。そんな世界に憎しみなんて不必要だろ。」
彼の甘い声が耳元で囁く。
「そんな…幸せな世界もあるのね」
いつまでもこの悪夢の中で過ごしていたい。最近の彼女はそう思うようになっていた。
自分が作り出してる悪夢であったとしても、現実世界に身を置くよりは遥かに心落ち着ける場所であった。
そしてそんな悪夢が、自分を崩壊しようとしている事も、彼女自身がよく判っていた。
頻繁に現れる内海はいつも彼女に甘い言葉を囁く。
『僕には君が必要なんだ。君にも僕が必要だろう?』
夢の中に現れる夢魔は熊耳を闇の中へ引きずり込もうとしていた。