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なにもない手から生まれるもの |
今の所、機動警察パトレイバーがメイン 『好きこそ物の上手なれ』を目指して邁進中 |
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酔っぱらいの戯れ事 5
「確かに俺には…関係無いな…」
遊馬が静かな声で答える。それは何をも寄せ付けないような響きがあった。
「…ごめん」
「…なんで謝るんだよ」
「…ごめん…冷たい言い方だった…」
「いや…俺には関係無い事だから…」
こんな風に言い出した遊馬は、何も聞き入れない。野明の心は冷たい泥の中に沈められたようだった。
「もう…俺寝るわ。お前は適当にベッドで寝てくれ…」
間もなくして、規則正しい寝息が聞こえて来る。
野明は頬を伝う涙だけが温かく感じられた。殺していた声が漏れそうだったので急いで風呂場へ駆け込む。シャワーを全開にして冷水を体にかける。こんな事で泣いている自分は悪酔いしているからだと言い聞かせ、酒も涙もすべてを流したかった。体がすっかり冷えきったが、温かいシャワーを浴びる気にもならなかった。
少し頭も冴え、落ち着いてから風呂場を出る。服を着直そうかと迷ったが、シワになっても困ると判断してバスローブを身につける。室内へ戻ると遊馬は熟睡しているようだった。風呂場にあった大きめのバスタオルを、遊馬の体にそっと掛け遊馬の顔を覗き見る。先ほどの冷たい声を発した遊馬はどんな顔をしていたんだろう?今寝ている彼は何でも無い、いつもの彼の顔だった。遊馬の寝顔を見ていると何故か野明の目頭がまた熱くなってきた。
「風杜さんには『今は仕事の事だけを考えていたい』って言ったんだよ。」
風杜とデートした時、遊馬への気持ちを問われた。その時の自分は判らないと答えたが、今はもう、家族でも、兄妹でもない事は判っていた。異性として遊馬の事を見ている。
「遊馬は大切だし…仲良くやって行きたいから…好きだから」
ぽたりと床に涙が落ちる。遊馬と出会わなければ、愛さなければこんな思いもしなかっただろう、こんな事をグダグダ考えている自分は嫌いだ。それに、これ以上泣いたら明日の朝は目が腫れてしまう。野明は遊馬のもとを離れ、バスローブの端で目を擦るとそっとベッドに入ろうと掛け布団に手をかけた。
その瞬間。体が反転して一気に天井が見えた。背中にはベッドの柔らかさが広がる。
「振った…と言うか保留って感じだな…」
さっきと同じ静かな声だが、どこか熱を帯びた遊馬の声。
驚ききった野明は一言も発する事が出来なかった。見開かれた大きな瞳に映るのは遊馬の顔。
いとも簡単に野明の両手首をベッドに縫い付け、遊馬が覆いかぶさってくる。
遊馬の無感情な目つきは、ただ、ただ野明に恐怖を与えた。
『怖い!』
心の中で叫びながら両手首の枷をほどこうとするが、やはり男の力に勝てるはずも無く、何の抵抗も出来ない自分に悔しくなる。唯一出来る事と言わんばかりに、野明の戦う目が強く強く遊馬を睨みつける。
ふっ…と遊馬の表情が悲しげになる。
「俺が大切…俺と仲良く?好きだから?…仕事上で…それともこういう関係か?…」
遊馬の口がほんの少しだけ笑ったようなカタチをした。
「…俺はこっちの方が良いけど…」
冷水を浴びて冷たくなっていた野明の体が一気に熱くなる。遊馬の言葉を聞いて脱力しそうだった。
「あ…遊馬…何を…」
「……俺と…こういう関係にはなれないか?…」
遊馬の唇が限りなく野明の唇に近づく、野明は目を固く瞑った。心の中では嫌だと叫びつつも
本当は遊馬を求めている自分がいるから、それは声にならない。
遊馬は野明の首筋に顔を埋める。鎖骨から耳の裏までひと舐めすると、ひっと野明が引きつるような叫びを発した。
「色気ねーの…」
からかうような笑いを含んだ声が耳元でしたが、さらに、野明の体に遊馬が伸し掛かった。
時間にして数十秒だが野明の中では1時間もそうしているのかと思えた。
「ん…ふっ…あ…遊馬…重いよ…」
寝息だけが野明の耳に届く。
「…寝ちゃった?」
全くと言っていい程返事が無い。完全に寝てしまっている人間は重い。しかもそれが大人の男であれば、下敷きになった野明がそこから這い出る事は容易ではなかった。何とか抜け出た時には、着ていたバスローブもはだけて半裸状態であった。乱れた息を整えひとつ深呼吸すると、うつぶせに寝ている遊馬を見詰める。
「…び…びっくりした…」
暫く遊馬の動きを観察したが、本格的に寝てしまっているようだった。ベッドの広さはキングサイズ以上だったので、遊馬から離れても十分二人で寝れるサイズだ。遊馬は起きる気配も無いし、自分も飲み過ぎぐらいの酒量と心身の疲労で猛烈な眠気に襲われてくる。野明はもう限界だと布団に横になると数秒と経たず眠りに落ちて行った。