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なにもない手から生まれるもの |
今の所、機動警察パトレイバーがメイン 『好きこそ物の上手なれ』を目指して邁進中 |
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酔っぱらいの戯れ事 4
遊馬は駅から一番近い、外観もシンプルなホテルを選んだ。
行くのをやめると言う選択も頭に過ったが、男としてのプライドがあった。
まだ、告白も何もしていないが、野明に男としてみられていない事が腹立たしかったし
自分が誘うはずが無いと思っている彼女が、そう言う事でからかってくるのも許せなかった。
躊躇せずに部屋を決めて行ってしまう遊馬に、何とか必死で野明もついて行った。
野明の耳には自分の鼓動がうるさい程に鳴り響き、自分の足とは思えない程に震えている。
ホテルでと言った事は半分冗談ではあったが、どうしても遊馬がやけ酒し始めた理由を知りたかったし、この場所が自分にとっても遊馬にとっても、何らかの結果を出せるのではないかと少しの期待もあった。待っているのは性分に合わない。だけど、自分からも行動に移せない、なのでこれは一つの賭けでもあった。しかし想像以上に自分が緊張していて、遊馬は怒りまかせで入ったという悪い流れだ。
とても結果など出ないのではと思われる状況での入室となった。
室内も外観通りで至って普通でシンプルだ。ただ、ベッドだけが異常に大きい。
隅にテレビ、ソファとスツール、サイドテーブルがあって、そこら辺のビジネスホテルより立派だった。
何処へ足を向けていいのか判らなかった野明は、呆然と部屋の入り口で立ち尽くしていた。
「いつまで突っ立ってんだ。座れば。」
遊馬は先にソファへと腰かけテーブルに酒やつまみを並べ出す。
「はぁ。じゃお邪魔します。」
「俺んちじゃねーよ」
「たはは…そうだね」
緊張し過ぎた野明の反応に遊馬は吹き出す。
「お前さ、結局避けてんじゃねーか。」
野明はソファを避けてスツールに腰かけた。
「そ…そうかな避けては無いけど」
「お前の考えじゃ、俺は何にもしないんだろ」
「うん。しないはず…。」
「じゃ…しねーよ」
遊馬はテレビを付けて、家に居る様にくつろいでビールを飲み始める。
野明も同じ様にまたカップ酒を飲み、つまみの袋を空あけた。
テレビからはバラエティ番組が流れてくる。
暫く無言の二人であったが、先ほどまでのイライラしている遊馬の雰囲気が和らいだ気がした。そんな空気感に少し安心した野明は遊馬に話しかける。
「ねぇ。なんか嫌な事とか悩みとかあるの?仕事の事?それとも太田さんに何か言われたとか?」
太田と聞いて遊馬は、嫌そうな顔しながらつまみを食べる。
「なんであいつがでてくんだ。…酒がまずくなる。」
「仕事でミスなんてしてないでしょ」
「してねーな。」
自分でも、頓珍漢な質問をしていると野明は思っていたが、まさか『あたしが遊馬以外の男の人と飲んだから嫉妬した?』なんても聞けない。本当にその事で遊馬がやけ酒し始めたのか確信も無い。だけど、彼の行動を考えると『そうなのか?』と思えてしまう。そんな事言ったら彼は『自意識過剰!勘違いも甚だしいな!!』と言うに違いない。自分の事でなく遠回しに聞いてみたらどうだろうと思い付いた。
「うーん。あ…こ…恋の悩みとか?」
「お前にそんな相談したって、良い知恵はでねーだろ」
「当たってはいるけど、失礼な奴だな。」
即答された遊馬の言葉にぶーっと膨れっ面になる野明。遊馬はそんな野明の顔を見てため息をつく。『好きだと思っている相手に…恋の何を相談するってんだ。』それ以前に俺がやけ酒したきっかけを、自分が作ったと言う事に気付いていないのか?『鈍感の極みだ!』と心中で悪態をつき始める。
広いベッドが目に入るが。そこへ彼女と一緒にたどり着く事なんてあるのだろうか?
このまま、襲ってしまおうか。なんて事も頭に過るが、自分みたいな人間があり得ない。
俺はホントに男か??なんてそんな事まで思ってしまうと、今野明とこんな所にいるのが無性に虚しくなってくる。
「そう言えばさっきの話し。
お前はどうなんだ?デートする相手いるぐらいなんだろ?」
遊馬は自分の苛ついている理由をあえて話題にした。野明の気持ちがそいつに対してどう思っているのか、そしてその相手の男が誰なのか知りたかった。何より自分への興味が全く無い様に見られる彼女は、もしかしてその相手を好きなのかもしれない。
「い…。あ…あれは〜。」
野明が口ごもる。
「相手は警察関係か?」
「はは…まぁそうだね。って何であたしの話をしないといけないんだよ?」
野明は困ったような表情で、その話しは終わりにしてと言わんばかりの口調だった。
だがそこで引き下がるような遊馬ではない
「知りたいだけ。強制じゃないから…言いたくなければ言わなくていいけどさ。」
「隊長みたいな言い方。」
「げー」
クスリと野明が笑うと、嫌そうな表情で遊馬は舌を出した。
手元のカップ酒を一気に空にすると野明が口を開く。
「ま…。隠すような事でも無いからいいか。
デートしたっていうか食事しただけだよ。相手は風杜さん。」
「あの刑事か」
「もう結構前だよ。グリフォン事件の時だもん。捜査協力の御礼にね。」
「ふ〜ん。」
内海と合ったのは野明だけじゃない、俺抜きの捜査協力か?と言いたくなったがどうでも良かった。風杜と野明の接点を思い出す。遊馬は風杜が野明に声をかけていた事は知っていたが、デートまで持ち込んでいた事に驚いた。まぁ、あんな優男風に見えてはいるが、根っからの刑事って奴なのかもしれないと思った。ただ、特車2課内の人物で無かった事に安堵する。時々来るだけの刑事なら自分も常は平静でいられる。
野明は料理の味を思い出し、少しうっとり気味で話ている。
「フランス料理を食べながら日本酒楽しむってお店で、いつも行くような居酒屋と全然違ったんだよ〜。あぁ。料理美味しかった〜。」
「なんだ…そんな店がいいのか?」
「そうじゃないって、居酒屋で言ったじゃん。
あたしは、肩肘張らない客が喧嘩してるようなうるさい所で飲んでた方が、気が楽なんだって!」
急いで弁明し始める野明は、テーブルに並べられた酒の中から缶チューハイを手に取る。
遊馬は目の前の小柄な酒豪を呆れた目で見ながら、公園から飲み続けていたビールを飲み切った。
「まぁお前と行くと必ずと言っていい程ああ言う店だものな」
「お〜。なんだぁ〜。他の女の子とは違う店みたいな言い方じゃないか。」
野明は嫌みのある笑い方をする。お返しだと言わんばかりに。
「…ちげーよ。」
「うふふ。隠すな隠すな〜。ちゃーんと大人な遊馬も居るじゃないか」
「なんつー言い方だ。絡み酒か!?」
遊馬も新たにウイスキーの水割り缶を開ける。
「あたしは、そー言う酒しか知らないの!実家が酒屋やっていたから。
そんな客しか見てないもの!!」
「へ〜。酒屋って飲めるスペースあるんだな。」
「全ての店がそうじゃ無いけど、ウチはそうだね。今だって常連さんがいるんだよ。」
野明は懐かしそうな顔しながら、小さい頃は少し飲ませてもらっただの、お客さんのおつまみを良くもらっていただの、そんな話しをし始めた。ひとしきり酒の初体験や失敗談。面白い常連客の話しで盛り上がった。
買って来た酒も殆ど飲み干した頃は、お互い許容酒量の限界を超えていた。
泥酔状態一歩手前の遊馬はソファに転がりながら、聞いておかねばならなかった事を口にした。
「…んで、風杜さん。…お前に…告白でもしたのか?」
「…そんな事聞いてどうするの?」
テーブルに突っ伏して遊馬を見詰める野明が、目だけを遊馬の方に向ける。
もう指一歩んだって動かしたくなかった。
「…されたんだ。」
数秒の間。
「…されようが、されまいが…遊馬に関係あるの?」
「付き合ってる事…否定したって事は…振ったのか?」
遊馬は天井を見上げながら問う。アルコールが回り過ぎて意識が飛びそうだ。
「…そんな事知って楽しいの?」
テーブルから少し頭を上げ、遊馬を見るが顔が殆ど見えないから感情が判らない。
遊馬は考えられない頭ながらも、自分の本音だけは隠した。隠さなければ良かったのかもしれないが…。
「…興味本位…かな…」
「遊馬には関係無いでしょ…」
興味本位と言う言葉が野明は気に食わなかったし、腹が立った。
冷たく言い放つと遊馬も黙る。
「興味本位で聞かないでよ…風杜さんに失礼だ…。」
『興味本位』彼の気持ちを垣間みたようで切なくなる。『やっぱり遊馬は私の事をどうとも思っていない』もう遊馬を見ていたくなかった。
風杜の笑顔を思い出すと何故だか胸が痛む。あの優しい風杜よりも、意地悪で自分の事をどう思っているのかも判らない男を好きになってしまった自分が情けなくて、でもどうしようもなく好きなのだと思うと涙が溢れそうになった。